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Posted by みら on  

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村上春樹の「卵と壁」

Posted by みら on   14  0



こういった朗報を目にすると、今この時期だからなのか、非常に嬉しくなります。
>> 戦死した兵士の日章旗、奥様の元へ

と同時に、遺品の返還にご尽力されている西羽さん(>> 戦争を語り継ごうブログ)や厚生労働省の社会・援護局援護企画課外事室のご活動に頭が下がります。

>> 出征67年 父の日章旗帰る(読売新聞 青森版)
>> 父の日章旗、67年ぶり遺族へ (東奥日報)

-----

話が変わりますが…。
村上春樹氏のエルサレム賞授賞式への出席とそのスピーチを英紙で最初に取り上げたのはガーディアン紙(Guardian)。
>> Murakami defies protests to accept Jerusalem prize (Guradian)

記事中の抜粋を読む限り、ひどく綺麗にまとめあげられたスピーチだな…と、その趣旨に納得しつつもわずかばかりの違和感抱え、元記事を探してみました。
「The Jerusalem Post」のこの記事のようですね。
>> Murakami, in trademark obscurity, explains why he accepted Jerusalem award (The Jerusalem Post)

しかし、日系の記事の書いている「ガザ攻撃批判」(毎日朝日)…というよりは、「人間」と"政治や軍事や思想や宗教的"な「システム」という、全世界に通じる普遍的な問題への警鐘なんじゃないかと思ったんですが…、あとから、Mainichi Daily NewsJapan Todayを読んだら、ジュルサレム・ポストがアップした「スピーチ抜粋」からは、いくつかのガザ攻撃に関する文章が抜けていたんですね。なるほど。

というわけで、これは探さねばならんでしょう…と、「Haaretz.com」で全文を見つけました。

>> Always on the side of the egg (By Haruki Murakami)

全文を読んではじめて趣旨が見えてきました。
結論から言って、すばらしいスピーチだったと思います。

「物事の"正と誤"を見極め判断するのは小説家としての重要な義務だけれど、その意見をどう世に伝えるかは、小説家によって異なる。自分の場合は、それを小説にして、(時に非現実方向に走る)物語の中で表現することを好むので、今日ここで政治的なメッセージを伝える意思はない」

としながら、

「でも、ごく個人的なメッセージもひとつだけ(one very personal message)伝えさせてください」…として言及されているのが、「自分はいつでも卵の側に立つ」という「壁と卵」の喩えです。
さらに、「これはなんのメタファーなのか?」として、真っ先に(イスラエルのガザ攻撃を想定して)考えられるのが、「軍と武器が"壁"で、それに殺され踏み躙られていく一般市民が"卵"」だけれど、それはあくまでひとつの喩えであって、「"壁と卵"はもっと深い意味を持っているのですよ」…と説明されています。

それが、卵が「かけがえのない個人」で、壁が「ザ・システム(The System)」。

ここでは既に"イスラエルとガザ問題"を離れ、「Jerusalem Prize」の趣旨の「Freedom of the Individual in Society」に繋がっていますよね。(もちろんそこにはイスラエルやパレスチナに対する痛恨の皮肉も込められていると私は感じますが…。)

そしてスピーチは、村上氏のお父様のお話に続きます。
昨年90歳で亡くなったお父様が、大戦で中国から生還され、その後毎朝仏壇に祈りを捧げる姿を戦後生まれの村上氏が見て、ある日お父様に「なぜ?」と聞かれたのだそうです。
お父様は、敵も味方も関係なく、戦争で命を失ったすべての人のために祈っているのだ…とお答えになる。その背中を凝視しつつ、お父様の周りに浮遊する死の影を村上氏は見たのだそうです。

One time I asked him why he did this, and he told me he was praying for the people who had died in the war.
He was praying for all the people who died, he said, both ally and enemy alike.
Staring at his back as he knelt at the altar, I seemed to feel the shadow of death hovering around him.



「お父様はすべての思い出をひとりで抱えたまま亡くなられたけれど、お父様の中にひっそりと潜んでいた「死」の存在は、村上氏の心の中に継承して残されている」そうです。

そして、この結論に進みます。

私たちは、国籍も人種も宗教の違いも超えた人間であり、一個人である。
壊れやすい「卵」の殻に包まれた個々の魂を持つ我々一個人が立ち向かっているのが、「システム」という高くて強くて冷たい「壁」なのだ。
個人として対峙する壁は強大過ぎてとても勝ち目がないけれど、しかし、ひとがそれぞれ、かけがえのない個としての自分を信じ、同様に他それぞれの魂を尊重し、皆がひとつになって力を合わせることで希望と勝利は生まれる。

We are all human beings, individuals transcending nationality and race and religion, fragile eggs faced with a solid wall called The System. To all appearances, we have no hope of winning. The wall is too high, too strong - and too cold. If we have any hope of victory at all, it will have to come from our believing in the utter uniqueness and irreplaceability of our own and others' souls and from the warmth we gain by joining souls together.



なるほどです。深いです。

スピーチの前半で、「自分は戦争も認めないし、どの国家も支持しない(I do not approve of any war, and I do not support any nation.)」と言われたあと、「そしてもちろん、自分の本がボイコットの対象となることも望んでいない」と言及されてますが、(スピーチによれば)、「エルサレム賞を受賞したら、ボイコットする!」との警告を(おそらく反イスラエル派)から受けたそうで、なんだかそういった「システムと言う名の下の争い」に一言述べるつもりでも、このスピーチがあったのかな…と勘繰りました。
(「もちろん自分は、イスラエルを擁護するつもりはないが…」ともしっかり明言されていますが。)

結局、イスラエル派かパレスチナ派かで二手に分かれて争っている限り、そこに解決策はないのではないかと。
どちら側かにつくのではなく、文化人としての中立の立場で、しかし世界の読者ひとりひとりにメッセージを送られた村上氏の度量の深さに感服するわけです。

…というか、この全文は日本語翻訳含めて、しっかり掲載されるべきだと思うのですが、だめなんでしょうか?
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-14 Comments

サッカーとカフェと音楽と says..."村上春樹の「卵と壁」"
感動しました。村上春樹のファンであることを誇りに思いました。

G7で失態を犯した政治家なんかよりも、こういう素晴らしいメッセージを、もっとたくさん伝えるべきだと思います。
2009.02.18 08:23 | URL | #- [edit]
kanno says...""
『私たちは、国籍も人種も宗教の違いも超えて、一個人である』という、もうこの時点で、体内にある概念が180度違う人々がいて、またその’’システム’’に洗脳されてそれを正とする人々がおり。その感覚は疑いのないところにあったりするわけで。
一方、諸悪の根源のひとつである個人の私利私欲がついには国家としての私利私欲というかたちに姿を変貌し、世界をまたに、洗脳された人々・国家の争いを煽り続ける。

村上氏のスピーチは大変日本人的とも思いました。美談的考えというか安易な理想と言うかにもとれそうですが、基本、世界はそうであってほしいわけで。こういう冷静さと客観的思考が全世界に広がれば良いです。
2009.02.18 09:37 | URL | #6facQlv. [edit]
わさわさ says...""
はじめまして。いつも読ませていただいてます。
私は2年前、県庁の「援護グループ」のある課でバイトをしていました。そこで働くまでは戦争のことに無知でした。沖縄には未だ何万人もの遺骨が埋まっていて、今でも遺族やボランティアの方たちは、海外や沖縄で遺骨を探しているそうです。その話を職員さんから聞いた時、とても衝撃を受けました。そして自分の様に何も知らない人がほとんどだよな。と。
県庁の方は、身元の判明した遺骨を引き取りに行っていました。私がいた1年間で、ロシアや沖縄などへ行っていました。未だに探してる人がいる、千人針もご家族の元へ戻れることを祈っています。

話は変わりますが、私、村上春樹さんと村上龍さんの名前と顔を反対に覚えていました。
「カンブリア宮殿」に出ている人を村上春樹さんと思い、顔は濃いのに爽やかな名前だ・・・と。そして村上龍という猛々しい名前なのにさっぱりした顔だな・・・と。先日のスピーチで間違いに気づきました。とてつもなく衝撃でした。
長くてくだらない文ですみません。
みらさんの千人針の記事で、戦争に対する自分の無知さに衝撃を受けたあの時のことを思い出しました。その衝撃が薄れかけていたことも知らされました。改めて忘れないで、知り続けていこうと思いました。
2009.02.18 13:39 | URL | #gJCpo6t. [edit]
MeKABU says...""
このところ大変興味深い記事がアップされていて
じっくり読ませていただいてました。
なかなか上手く感想を表現できないので、コメント
出来ずにごめんなさい。

村上春樹さんのスピーチ、ニュースでちらっと
見かけただけで、全部見たいなーって思っていたところでした。全文掲載、他でももっとしてくれればいいのに。
早速教えていただいたサイトをチェックしてみますね。
ありがとうございます。
2009.02.18 14:53 | URL | #JalddpaA [edit]
みら says...""
> サッカーとカフェと音楽と様
コメントありがとうございます。
ちょうど泥酔会見とぶつかって、ニュースがそちらに持っていかれてしまったそうですね。残念です。
この言葉は日本でももっと大きく公平に報道されてほしい気がします。

村上さんらしく、そしてまた媚びないところがいいですよね。

2009.02.19 08:29 | URL | #mQop/nM. [edit]
みら says...""
> kannoしゃん
確かにまさしく理想論だし、これが世界の全員に通じたら、ほんと理想郷ができあがるよな…っていうのは事実なのだけど、(で、スピーチ抜粋だけの報道を見て、私も「なんだかきれいごと過ぎる」って思ってしまったのだけど)、全文を通して読んだら、村上さんらしい筋が通ってるんだな…と、小説読むように単純に敬服しました。

でも、わかる。
「人種も国籍も宗教も」ない日本でこそ、棚に美しく飾れる話かもしれない。

> 体内にある概念が180度違う人々がいて
うんうんうん。
そうなんだよね。システムに同化してしかアイデンティティを確立できない人もいるわけで、これが素直に世界に受け入れられるとは思えない。
でも、ノーベル平和賞には受け入れられるかもしれない…と、ちらっと意地悪く考えてみたりもしたのだけどね。

でも私はやっぱり村上春樹の文章に助けられたことが多いし、彼の書く世界が純粋に好きなので、これも素直に受け入れてみました。てへ。

2009.02.19 08:45 | URL | #mQop/nM. [edit]
みら says...""
> わさわささん
コメントありがとうございます!
そうでしたか。"援護関係"のお仕事してらしたのですね。大変なお仕事ですよね。お疲れさまでした。
私は本当に本当に無知で、千人針に出会うまで、厚生労働省の援護局も、そして各県に援護局があることも知りませんでした(恥)。
今回、今もなおご遺族ため、亡くなられた軍人さんのためにご尽力されている方たちのことを知り、映画や本や聞きかじった情報だけで戦争のことを語っていた自分が情けなくなりました。

日本に帰国できないまま遺品を海外に持ち去られてしまった方々、いまだに土の中に眠っている遺骨、家族に会うことなく命を落とされた方の無念さを思うと、私もこれからもしまた機会があったら何かお手伝いさせていただきたいと思っています。

あはは!村上春樹さんと龍さんのお顔はかなり違うかも…ですね(笑)。作風は違うけれど同時代の作家さんですものね。取り違えてしまうことも多いのかもです。

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> その衝撃が薄れかけていたことも知らされました
あ!わかります。そうなんですよね。結局、日々の忙しい時間に流されて、薄れていくこともありますね。それは生きている限り仕方のないことだと思います。
でも、知っていて薄れるのと知らないまま年を取るのはまったく違うことなので、知っていることを後世に伝えていくということが、私たちがするべきことなのかもしれませんね。
改めまして、ありがとうございました!

2009.02.19 09:03 | URL | #mQop/nM. [edit]
みら says...""
> MeKABUさん!
コメントありがとうございます。
村上さんのスピーチは、ニュースで2~3分伝えられたようなイスラエルのガザ攻撃批判だけにとどまっていないので、もし機会があったらぜひ全文に目を通してみてください。印象がだいぶ変わるのではないかと思います。

私は「ダンス・ダンス・ダンス」が一番好きで、どちらかと言うと初期作品のファンなので、その村上像からはやや違和感もあるのですが(苦笑)、でもスピーチ自体、短編小説のようで、なんだか懐かしく読めました。
(↑)のkannoしゃんへのレスにも書きましたが、まさに理想の世界でもあるのだけれど、でもこれが世界の中の誰かの心に届くといいですよね。

2009.02.19 09:10 | URL | #mQop/nM. [edit]
ぴよ♪ says...""
テレビニュースで見て、すごく感動しました。
でも、新聞でこの記事を見つけることが出来なかったので
私の受け止め方は一方的なのかな、狭いのかな、
何かもっと深い読み取り方があるのかな、と思ってました。
でも、反対の中、敢えて現地でスピーチをして、
ただ「光栄です」というだけじゃなく、今の情勢の中で
言うべきこと、言いたいことを世界に向けて発信するというのは
勇気の要る、命がけのことだったと思ったのです。
「村上春樹」というと「みらりんの好きな作家さんだったよな」
という認識しかない私ですが(^^;
こんな有名人が理想(と思わない人もいるでしょうが)を示してくれることに
単純に、素直に、感動しましたよ。私も・・・てへ。
2009.02.20 00:18 | URL | #- [edit]
みら says...""
> ぴよ♪ちゃん
うんうん、そうだよね。欠席して自分の意思を表明する方法ももちろんあるけれど、でも周りが(政治的に)注目している中、敢えて出席して、そしてこういうコメントを出す…っていうのは、やっぱりなかなかできないことだよね。これで賛同してくれる人も多いだろうけど、逆の場合もあるわけで、そこにはやはり村上さんの強いバックボーンが見えました。そこがすばらしいなと思う。で、同じ日本人として、感謝したい気持ちになります。

ぴよ♪ちゃんと思いを分かち合えてうれしい♪ てへ。

2009.02.20 09:14 | URL | #mQop/nM. [edit]
foxryo says..."全文"
わたしがよくいく「さとなお.com」さんのページに和訳全文が載ってます。
卵に寄り添う人でありたいなぁと思います。


http://www.satonao.com/book/haruki_jerusalem.html
2009.02.21 00:56 | URL | #- [edit]
みら says...""
> foxryoさん
リンクありがとうございます。
和訳されている方のページはほかにもいくつかあるようなのですが、あとで村上さんご本人の言葉で書いていただけたらうれしいなぁとも思います。
今回のスピーチは、そのまま英語で読むほうがダイレクトに伝わるような気もします。それで、記事中にも詳しい訳は載せないでおきました。
2009.02.21 07:38 | URL | #mQop/nM. [edit]
ころーる says...""
オバマ大統領の就任演説は、日経に全文が英文と和文で載ってました。
いわゆるオバマ本っていうのかな、彼の演説集みたいなものも、今本屋さんにあふれんばかりに置いてあるんですよ。

なのに、村上春樹のスピーチ全文を新聞に載せないのって、なんかおかしいなぁと私も思います。
和訳にはいろんなものがあって、村上春樹は翻訳大好きみたいだし、ぜひともご自身で和訳して英文と和文を公開して欲しいな~って思いますね。
娘は村上春樹好きなので、「ライ麦畑~」とか「華麗なるギャツビー」も彼の翻訳で読みなおしていました。

今回のスピーチの核は、みらさんのおっしゃるとおり、まさに「卵と壁」でしたよね。
私も、このスピーチは、すごく普遍的なことを伝えようとしてる気がしました。イスラエルのみを批判してるというよりは、世界中に言いたかったんだと思います。

もしかして日経に載ったのかしら?あとでちょっと調べてみようかな~。

2009.02.22 10:32 | URL | #mWt2sFS6 [edit]
みら says...""
> ころーるさん
最初、「卵と壁」の抜粋だけを読んだときは、「ん?なんだかオバマさんの演説みたいだわ」とちらっと思ったのですが(失礼しました)、やはり全文読むと、そこには政治を離れた小説家としての「一言」が見えてきますよね。
これは全文でぜひ掲載していただきたいものです。
村上さんの日本語的な解説も、できればあとで読んでみたいですね。エッセイ、書いてくださるかしら?
でも村上さんのエッセイでは、「それは自分独自で解釈してください」って場合が多いので、これもそれぞれが咀嚼していくしかないですかね。

翻訳の読み直し、わかります!!翻訳本の日本語訳との相性っていうのもあるんですよね。私も春樹さん訳が好きです。

2009.02.23 05:56 | URL | #mQop/nM. [edit]

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